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絵師でたどる妖怪 第五回|月岡芳年——髑髏を描かず、髑髏を見せる

連載 ・ 横串の読みもの

絵師でたどる妖怪 第五回|月岡芳年——髑髏を描かず、髑髏を見せる

平清盛の背後に、巨大な髑髏がいる。けれど、骨の一本一本は描かれていない。月岡芳年が、描かないことで怪異を立ち上げた一枚をたどる。連載第五回。

壱 髑髏は、すぐには見えない

一八九〇年、月岡芳年は『新形三十六怪撰』に「清盛福原に数百の人頭を見る図」を描いた。

月岡芳年 新形三十六怪撰 清盛福原に数百の人頭を見る図 1890年 東京都立中央図書館蔵 部分
月岡芳年《新形三十六怪撰 清盛福原に数百の人頭を見る図》一八九〇年。東京都立中央図書館蔵(部分)。パブリックドメイン。

手前にいるのは平清盛である。福原の屋敷で刀を引き寄せ、背後を睨んでいる。

だが、題にある「数百の人頭」は、画面いっぱいには並んでいない。清盛の後ろにあるのは、淡い大きな円と、二つの黒い穴。しばらく見ていると、その円が頭蓋に、穴が眼窩に見えてくる。

髑髏は、最初からそこにいる。
こちらが気づくまで、姿を現さない。

弐 国芳が出した骨を、芳年は隠した

芳年の師・歌川国芳は「相馬の古内裏」で、巨大な骸骨を御簾の向こうから出現させた。肋骨も指も歯も描き、人間と同じ画面で襲わせた。

若い芳年も『和漢百物語』では、鬼の姿や切り落とされた首を、鮮やかな色と線で画面の手前に置いた。

月岡芳年 和漢百物語 酒呑童子 1865年 国立国会図書館蔵
月岡芳年《和漢百物語 酒呑童子》一八六五年。国立国会図書館蔵「NDLイメージバンク」。著作権保護期間満了。

それから二十年以上。晩年の芳年は反対へ進む。

骨の細部を描かず、怪異のほとんどを背景へ沈めた。代わりに大きく置いたのは、それを見ている清盛である。肩越しの顔、刀へ伸びる手、黒い穴へ向く眼。その視線を追った先で、見る者も髑髏を発見する。

怪異を見せる前に、怪異を見た人を見せる。
芳年の一枚では、恐怖がこの順番で届く。

参 動いているのは、見る側の目

『平家物語』では、福原の庭に無数の髑髏が転がり出る。それらは絡み合って一つになり、庭に収まらないほどの巨大な髑髏となって、清盛を睨み返す。物語が語る大きさは十四、五丈。今の長さにすれば、およそ四十五メートルにもなる。

原話には、転がる、集まる、睨むという動きがある。ところが芳年は、その途中を一枚も描かない。すべてが終わり、清盛と髑髏が向き合った一瞬だけを残した。

同じ晩年の『新形三十六怪撰』にある「清玄の霊」も、白い気配と人物の姿が重なり、どこまでが現実かを曖昧にする。

月岡芳年 新形三十六怪撰 清玄の霊桜姫を慕ふの図 国立国会図書館蔵
月岡芳年《新形三十六怪撰 清玄の霊桜姫を慕ふの図》一八八九〜九二年。国立国会図書館蔵「NDLイメージバンク」。著作権保護期間満了。

怪異の輪郭を閉じず、見る者の目に続きを委ねる。

それでも、絵は止まらない。

二つの黒い穴を眼だと気づいた瞬間、背景だったものが顔へ変わる。次に見直したときには、もう元の円には戻らない。

芳年が動かしたのは、紙の上の髑髏ではない。
絵を見る、こちらの目である。


主な出典:『平家物語』巻第五「物怪之沙汰」/国立公文書館「平家物語――妖しくも美しき――」/東京都立図書館デジタルアーカイブ/太田記念美術館「月岡芳年 妖怪百物語」。諸説ある箇所は断定を避けています。

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