もののけみーつけた YOKAI FOLKLORE
鬼女紅葉(きじょもみじ)の浮世絵

中部 ・ 長野県 長野市(戸隠・鬼無里)

鬼女紅葉(きじょもみじ)きじょもみじ

Kijo Momiji (Momiji the Demon Woman) ・ 変化(美女と鬼のあいだ)

信濃・戸隠の山中で宴を開く、都ぶりの美女。招かれた武者・平維茂が酔って眠り、目覚めると女は角を生やした鬼に変じていた。謡曲「紅葉狩」の物語。

伝承

信濃の戸隠山に、紅葉(もみぢ)という女が棲んでいたという。都ぶりのふるまいと、たぐいまれな美しさをそなえた女であった。

紅葉の盛りの山中で、平維茂は女の宴に招かれる。酒を勧められ、舞を見せられ、心地よく酔って眠りに落ちる。――目を覚ましたとき、目の前に立っていたのは、角を生やし、髪を逆立て、金色の目をした鬼であった。維茂は太刀を抜き、これを討つ。

謡曲「紅葉狩」(室町期・観世小次郎信光作と伝わる)ほかの記述より要約

能から浄瑠璃へ、歌舞伎へ、長唄へ。「紅葉狩」は舞台の演目として繰り返し演じられ、江戸の草双紙にも採られて、全国に広まった。日本の妖怪のなかでも、これほど「舞台で育った」妖怪は多くない。

そして――この物語は、もう一度だけ跳ぶ。明治二十年(一八八七)、新富座で歌舞伎舞踊「紅葉狩」が初演された。その再演を、明治三十二年(一八九九)十一月二十八日、柴田常吉がカメラで撮影する。舞台に立ったのは、当時「団菊」と並び称された九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎。團十郎は活動写真が大嫌いで、「自分が生きているうちは公開しない」という条件をつけて、ようやくカメラの前に立ったという。

このフィルムが、日本人によって撮影された現存最古の映像である。二〇〇九年、映画として初めて重要文化財に指定された。

紅葉は、絵巻から能へ、能から歌舞伎へ、そして歌舞伎から――映像へ渡った。この国で最初にカメラに写った物語が、戸隠の鬼女の話だったということを、私たちはもう少し覚えていていい。

鬼女紅葉(きじょもみじ)の場面

なぜ、この土地で

紅葉が棲んだとされる里は、いま「鬼無里(きなさ)」と書く。「鬼、無し」――退治が終わったあとの土地の名である。荒倉山には紅葉の岩屋が残り、戸隠には杉並木と宿坊が続く。ところが土地の伝えを聞くと、話は少し違う顔を見せる。紅葉を「鬼」としてではなく、都を追われてこの山里に流れてきた一人の女性として弔う伝えが、いまも根強く残っているのだ。討たれた側から見れば、この物語はまったく別の話になる。

絵の出自

この妖怪の「かたち」は、どこから来たか

出典の、二つの層

鬼女紅葉(きじょもみじ)の浮世絵

この伝説をたどると、奇妙なことに気づく。謡曲「紅葉狩」は室町期にさかのぼる。ところが――いま私たちが「鬼女紅葉伝説」として知っている筋書き、すなわち紅葉が会津に生まれ、都で寵愛を受け、野心を暴かれて信濃に流された、というあの詳しい前半生は、じつは『北向山霊験記 戸隠山鬼女紅葉退治之伝』(明治十九年=一八八六)という、比較的あたらしい書物に負っている。古い能と、近代に整えられた物語。伝説は、一枚岩ではない。私たちは、その二層を分けて見る必要がある。

石燕は木版、のちの絵師は墨と筆。わたしたちもまた、いまの筆で。道具は変わっても、向き合う相手は同じ——夜の向こうの、見えないもの。

鬼にされた側から見ると

妖怪の話は、たいてい討った側が書き残す。紅葉も同じだ。勅命を受けた維茂の側から見れば、これは討伐譚である。だが鬼無里の人びとは、紅葉を弔ってきた。都を追われ、山に生き、やがて討たれた女性として。妖怪とは何か――この伝説は、その問いを正面から突きつけてくる。私たちは、両方の伝えを併記する。どちらかを消してしまえば、この土地の記憶が半分になるからだ。

解釈

むじな(顔がない)・のっぺらぼうが"見た瞬間の恐怖"なら、紅葉は"信じていたものが変わる恐怖"である。美しい女が鬼になる。もてなしが罠になる。牛鬼(襲う者が祓う者になる)とは逆向きの転回だ。そして――どちらの顔が本当だったのかは、語る側によって変わる。

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