もののけみーつけた YOKAI FOLKLORE
オシラサマの浮世絵

東北 ・ 岩手県 遠野

オシラサマおしらさま

Oshirasama ・ 家・養蚕の神

桑の木で作られた、馬と娘の神。人と馬がひとつ屋根の下で暮らした遠野の、哀しくも温かな養蚕の記憶。

伝承

遠野の古い農家は「曲り家(まがりや)」といって、L字に折れたひと屋根の下で、人と馬が一緒に暮らしてきた。馬は労働力であり、堆肥を生み、ときに家族そのものだった。——その遠野に、父と娘の二人暮らしの家があった。娘は、飼っていた一頭の馬を、いつしか離れがたく思うようになる。

忽(たちま)ち娘は、その首に乗りたるまま、天に昇り去れり。オシラサマというは、この時より成りたる神なり。

— 『遠野物語』第六十九(柳田國男・一九一〇/青空文庫=パブリックドメイン)

娘と馬は、夜ごと厩(うまや)で寄り添い、ついに夫婦となった。それを知った父は、娘に知らせぬまま、馬を桑の木に吊るして殺してしまう。馬がいないのに気づいた娘は、桑の木の下で、死んだ馬の首にすがって泣いた。その姿を憎んだ父が、斧で馬の首を打ち落とすと——娘は首に乗ったまま、天へ昇っていった。

残された父の夢枕に、娘が立つ。臼(うす)の中に、頭の馬に似た小さな虫がいる、桑の葉で養いなさい——そう告げて。それが蚕(かいこ)であり、絹をもたらす養蚕の始まりだという。父は、馬を吊るした桑の枝で、娘と馬の顔をした二体の神像を彫り、布を着せて祀った。

これがオシラサマ。桑の木に宿る、馬と娘の神である。遠野の旧家には、今も布を幾重にも着せられたオシラサマが祀られ、年に一度、イタコの手で「遊ばせ」られる。迷い事のあるとき、馬の顔がふと、どちらかを向く。——そうして今も、誰かの問いに、静かに答えている。

オシラサマの場面

なぜ、この土地で

遠野が南部駒の名産地だったことと、この話は切り離せない。馬は農家の宝で、曲り家のひと屋根の下、土間をはさんで人のすぐ隣に生きていた。だからこそ、人と馬の境がにじむこの物語が、ここで深く根づいた。

馬と娘が結ばれる「馬娘婚姻譚(ばじょうこんいんたん)」そのものは、古く中国の『捜神記』にも見える古い話型だ。けれど遠野では、それが養蚕という暮らしの糧(かて)と結びつき、哀しい恋の話が、絹をもたらす神の物語になった。土地が、伝承に体温を与えたのだ。

絵の出自

この妖怪の「かたち」は、どこから来たか

桑の木に宿る、二体の神

オシラサマの浮世絵

オシラサマの姿は、絵というより「神像」だ。桑の木を削った棒の先に、馬の顔と娘の顔を彫り、その上から布を幾重にも着せる。土地によって、顔まで布で包む「包頭(つつみがしら)」型もあれば、顔を見せる型もある。

このページの絵も、各地に伝わるオシラサマの素朴なかたちを作り変えず、受け継いでいる。新しい造形を発明するのではなく、土地が祀ってきた姿を、そのまま映す。

石燕は木版、のちの絵師は墨と筆。わたしたちもまた、いまの筆で。道具は変わっても、向き合う相手は同じ——夜の向こうの、見えないもの。

「お知らせ様」という名

オシラサマの名の由来には、こんな説がある。迷い事や凶事のあるとき、御神体の馬の顔がどちらかへ向いて「お知らせ」してくれる——その「お知らせ様」が転じて「オシラサマ」になった、というのだ。

東北では、オシラサマはイタコ(口寄せの巫女)と深く結びついてきた。イタコは「オシラ祭文(さいもん)」を唱えながら、両手に神像を持って遊ばせる。神は祀るだけでなく、人の手のなかで動き、声を介して人と語る。

桑の木の小さな神は、今も東北の家々の神棚にいる。布の下で、馬と娘は寄り添ったまま。問えば、こちらを向くかもしれない。

解釈

オシラサマが何の神なのかは、実ははっきりしない。養蚕の神であり、眼の神であり、子どもの神であり、農や狩りの神でもある——土地ごとに、託された願いが違う。

たぶん、それでいいのだ。父が娘を喪(うしな)った悲しみと、それでも暮らしを続けていく祈りが、桑の木の一対の像に宿った。失われたものを、布をかけて、なお家のなかに置いておく。オシラサマは、そういう神なのだと思う。

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書籍
遠野物語 オシラサマの話(第六十九)が収められた、遠野の語りの原典。
作家
(作家名が入ります) オシラサマをモチーフにした作品をつくる作家さん。
グッズ
(商品名が入ります) オシラサマの郷土玩具など。将来このボタンから外部ショップへ。
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