赤い和傘の下に、白い狐面をつけた新郎新婦が並ぶ。顔は見えない。二人が誰なのかも、祭りが終わるまで明かされない。
山口県下松市花岡の稲穂祭「きつねの嫁入り」は、仮装行列から始まった話ではない。享保九年(一七二四)、法静寺の住職の夢枕に、死を迎えた白狐の夫婦が立った。人と同じように葬り、畜生道から救ってほしい。住職は夢で示された場所を訪ね、二匹を手厚く葬ったと伝わる。
葬られた夫婦が、町を歩く
現在の行列では、狐面の新郎新婦を先頭に、親族や供の者が旧山陽道を進み、周防花岡駅へ向かう。亡骸として見つかった白狐夫婦が、今度は婚礼の姿を得て、人々の前を歩く。
新郎新婦の正体を秘密にする習わしが、行列をただの再現にしない。面の下にいるのが誰かではなく、この日だけ現れた狐の夫婦そのものを見ることになるからだ。

町が、伝説の続きを担ぐ
祭りが現在の形で始まったのは昭和二十五年(一九五〇)。江戸の白狐伝説を、戦後の町が新しい行列として蘇らせた。古い話を保存するだけではない。赤い傘を差し、面をつけ、人力車を引き、町全体で物語の続きを演じている。
十一月三日、花岡の普段の道が嫁入り道になる。見に行くのは狐の仮装ではない。三百年前に葬られた夫婦が、土地の人の身体を借りて、もう一度並んで歩くところである。
開催概要
日:2026年11月3日
会場:法静寺・花岡福徳稲荷社周辺、旧山陽道花岡界隈
所在地:山口県下松市大字末武上 戒町1224
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